これくたぶる!

モンスターマスクコレクター、ALI@ハット卿のマスクと本と映画に関する無駄話。不定期更新。

謹賀新年/最近の同人誌出版事情

明けましておめでとうございます。
昨年は健康事案でほぼ更新できなかったのですが、今年はもそっと頻繁に更新できそうに思います(←予定^^;)。

本年もよろしゅう。

 

f:id:ALI_Sir_Hatt:20191231212336j:plain

最近出版された同人誌類

というわけで新年一発目は同人誌の話題。
ご存じの方にとってはいまさらですが、この数年同人誌、それも翻訳や復刻、発掘同人誌がかなり"ヤバめ"(←キズナアイ風)なことになっておりまして、もはや無視できないレベルになっています。いずれも大手出版社がなかなか手を出さないところをカバーしていて、書籍として非常に魅力的なものが増殖している現状です。

筆頭はミステリSF専門の有力古書店として知られる盛林堂書店さんが出している「盛林堂ミステリアス文庫」シリーズ。刊行点数もすでに60点を超え、定番と言った安定感抜群のシリーズです。
戦前の本格派、大阪圭吉の単行本未収録作品を3巻にまとめた「大阪圭吉単行本未収録作品集」、幻想文学の巨匠ロードダンセイニの評論までもカバーしたペガーナ・コレクション」(2巻目まで刊行中。第2巻『芸術論』では、あのアーサーマッケンの「夢の丘」の書評が読める)等々、ミステリ・SF・幻想系文学に関心を持つ読者なら必携でしょう。

 

お次は盛林堂さんともタッグを組んでいる東都 我刊我書房さん。「渡辺啓助単行本未収録作品集 悪魔館案内記」、『新編左川ちか詩集 前奏曲』、倉田啓明探偵怪作撰『落ちていた青白い運命』等、探偵小説フリークには見逃せないものばかりです。

手間暇のかかかった労作が多いので仕方ないのですが、ちょいと値段が高いものが多いのがネックで、自分も全部買えなかったのが残念でした。

 

幻想系ではエニグマティカ叢書から出た『地獄の門』完全版(既訳部分:田中早苗訳/新訳部分:中川潤)は、ルヴェル第一短編集「地獄の門」を初めて原書と同じ配列でまとめ直した貴重な訳業で翻訳大賞レベルの傑作。
コソ泥の恐怖体験を描く「空家」、列車事故にまつわる恐怖「十時五十分の急行」、不倫妻と情夫への復讐劇「大時計」等々、誰もが読みやすく印象に残る佳編のてんこ盛りで心底買って良かったと思う1冊。

ルヴェル作品で一番人口に膾炙した作品である「或る精神異常者」も新訳で収録されていますが、旧訳との区別でちょっとだけタイトルが変わっています。まぁこれは元のままで良かったかなとは思いますが。

f:id:ALI_Sir_Hatt:20191231212452j:plain

地獄の門」完全版

幻想系で特に印象深かったのは、渦巻栗氏によるアルジャナン・ブラックウッドの自然に潜む神秘・怪異を扱った短編集「万象奇譚集」、「深山霊異記」の2冊。

ブラックウッドの恐怖文学は背景にアニミズム的幻想があるのが他の作家と一線を画する特徴ですが、「海憑き」「通い路」(「万象奇譚集」収録)などを読んで特にその点を実感しました。

f:id:ALI_Sir_Hatt:20191231212537j:plain

「万象奇譚集」

「万象奇譚集」はすでに品切れのようですが、訳文も読みやすく素晴らしい短編集なので実にもったいない。国書刊行会あたりからまとめて再刊でもされたらいいなぁとか思っています。

翻訳ミステリでは、別冊Re-ClaM 第1巻として『赤い右手』でつとに知られるJ・T・ロジャーズの『死の隠れ鬼』が出ました。嵐の夜に大邸宅から影のように消えた殺人狂を追う「死の隠れ鬼」他2編収録で、いずれも悪夢を彷彿とさせる怪作。ミステリファンなら見逃せません。

 

最後に一点、久しぶりのROM叢書として年末に「ロウランドハーンの不思議な事件」もリリースされています。謎の作家と言われるニコラス・オールドの稀覯書の全訳でチェスタトン風味の奇想天外なミステリ。まだ全部読んでないのですが、既存出版社から出そうもない本なので訳者さんには感謝感謝の雨あられです。


ということで新年のごあいさつを兼ねて、最近気になっている昨年の印象に残った同人誌二三の簡単な紹介をしてみました。

とにかく同人誌は次から次へと出版されるので入手だけでも大変。盛林堂さんのように一部通販での入手もありますが、文学フリマなどに出向かないと入手できないものも多く、地方の人は苦労しているのではないでしょうか。再販がほとんどないことが多いので、買いそびれると入手はかなり絶望的。なので気になるものはとりあえず押さえて置くことにしていますが、その結果、トータルでは結構な金額になってしまい、新刊・古書の購入に影響が出ています。いやー困ったもんだ。

今年も毎月のように新刊が出ることが予想されるので、いまから十分準備しておかねばなりません。嬉しいような哀しいような。