これくたぶる!

モンスターマスクコレクター、ALI@ハット卿のマスクと本と映画に関する無駄話。不定期更新。

限定本の愉しみ/私家版『幻燈館』

『なめくじ長屋捕物さわぎ』や『キリオン・スレイ』等、数多くのシリーズものと膨大なショートショート群で知られるミステリ界きっての技巧派故都筑道夫には、いわゆる限定本や豪華本といった類の本がほとんどなかったように思う。そのため現在高額なプレミアのついている古書というと、デビュー作の「魔界風雲録」を含む初期ミステリ数冊とジュヴナイルぐらいで、あとは真鍋博と組んだ「クレオパトラの眼 12の話のカレンダー」(昭和36年)ぐらいしか思いつかない。

が、迂闊な当方の知らない間に『幻燈館』なる豪華な限定本が1冊出ていたことを、高井信さんのユニークなブログ「ショートショートの...」と元創元社の編集顧問だった書店員さんのブログ「パン屋のないベイカー・ストリートにて」の二つで昨年知った。
この本、都筑道夫ショートショート20篇すべてにアーティスト西村健三氏のコラージュを配した超魅力的なもので、デザインも素晴らしく、どうしても欲しい1冊である。

ただ、上記ブログ紹介記事の日付は両者とも2011年。すでに5年も経っている上、本の刊行自体は1990年と、もう25年以上も前のことだ。

いまさらジタバタしたって始まらない。諦めて古書で探すことにしたが、何と言っても限定100部のレア本。そうそう簡単には見つかるわけもなく、とりあえず心の片隅に置いておいて、まぁ、そのうちに、なーんて余裕をかましていた。

ところがすっかり油断して忘れていた今年、ヤフオクに1冊、さらにたまにチェックしているネット古書店に1冊と短期間に2冊も出現! しかも両方とも気づいた時にはすでに売り切れた後という、、、

く、くやしい、、、悔しすぎるではないか、、、

諦めて静かに寝よう、、、と思うのだが、なかなか寝付けない。
なんでヤフオクキーワード登録しておかなかったのか、
なんで更新日に古書店のチェックをしなかったのか等々、、、

う〜ん、やけに珈琲が不味いぞ。レストラン仕様なのになんでやろ。ワシの舌がおかしいんやろか。(落胆のあまりいろいろおかしくなっている)

で、どうしても諦めきれないので、ダメ元で刊行者である彫刻家の西村氏に恐る恐るメールしてみた。
そのメアド自体、現在使われているものかどうかも保証がないし、さらに出版社ではなくて個人アーティスト事務所なのでちょっと問い合わせ辛い。
なにしろ超巨大なオブジェなんぞを制作する人で、たぶん、一般個人相手の仕事なんてあまりしてなさそうな印象ではある。

ともあれドキドキして送信した。

そうしたら・・・なんと早くも翌日にはお返事がっ!

しかも驚いたことにデッドストックがあったらしく、1冊お譲り頂けるとの事!

歓喜雀躍

う、嬉しすぎて涙目です、、、
いや〜諦めずに一応は聞いてみるもんですね〜。^^

西村氏は商業美術なども手掛けておられる堅実かつ誠実な方のよう。昔会ったことのある岡本太郎みたいな人でなくてひと安心(いや、別に嫌いじゃないですが^^;)。


シックな黒の夫婦箱

中はシンプルな筒箱

これまたシンプルなたとう

中身は二つ折り

オリジナルプリント

全体はこんな感じ

というわけで画像が送って頂いたShort story 都筑道夫/Collage 西村建三『幻燈館 GENTOHKAN』私家版(1990)。なんともクールかつスタイリッシュな仕上がりの1冊である。
一応、書誌的なことを書いておくと、この本は産経新聞大阪版夕刊に1988年6月から1989年6月まで52回にわたって連載された都筑道夫ショートショート『幻燈館』の中から小説本編と、挿絵として掲載された西村氏のコラージュ作品19点を選び、刊行に際して新たにオリジナルコラージュ3点を追加して90年に100部限定で刊行されたもの。

中は右側にショートショート本文、左側にコラージュを配した二つ折りで、プレスビブリオマーヌの本などで見かけるように束ねてたとうに収納したスタイル。図版は凸版手差印刷、本文は活版組オフセット印刷で、用紙はいづみ(特殊製紙)という手の込んだ代物。夫婦箱入り15000円と、夫婦箱なし10000円(共に送料込み)の二種類があったらしいが、夫婦箱なしはすでに完売した模様。

掲載されている都筑道夫ショートショート自体は光文社文庫の『グロテスクな夜景』(90)で「五十二枚の幻燈たね板」として全編読むことができるけれども、こうして挿絵付きの豪華本で読む楽しさはまた格別なものがあり、文庫では見過ごし勝ちな面に気づいたりする。たとえばモームの「コスモポリタン」よろしく、見開き1ページで読了できることにより、都筑道夫の小説巧者としての側面を再認識したりするのだ。巻頭に置かれた一編「古本屋」の、その手際の良いことといったら。
また、挿絵として添えられたコラージュも、余白を大きくとった広い紙面に抑制の効いた美しい黒白のコンポジションを描き、小説世界を補完しつつもイメージを大きく拡げていて楽しい限り。まさに眼福である。

一般に限定本というと好事家の贅沢品と思われがちだが、制作の手間ヒマを考えたらこの値段でもけっして贅沢とは言えないだろう。なにより好きな作家の限定本を入手できた時の嬉しさ、読むときの楽しさ、そして書架に並べた時の満足感は何物にも代えがたい。

デジタル全盛の昨今、藍峯舎等、一部に紙の本の牙城を守ろうとする動きが見られる。たしかに手間もお金もちょっとはかかるけれど、たまにはこうした紙の本を愛でてみるのも一興ではなかろうか。
(*文中一部敬称を略しました)


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