これくたぶる!

モンスターマスクコレクター、ALI@ハット卿のマスクと本と映画に関する無駄話。不定期更新。

国書刊行会40周年

国書刊行会が今年で40周年を迎えたそうで、いやなんともめでたいことである。
大型新刊書店では9月からブックフェアの真っ最中で刊行目録と瀟洒なカバーの記念冊子「私が選ぶ国書刊行会の3冊」が無料配布中。残っていたのをなんとか1冊貰ってきたが、目録と諸家の選んだ書名を見比べながらつらつら眺めていると感慨深いものがある。

思えば「世界幻想文学体系」以来、国書の刊行物にはどれだけ楽しませてもらったかわからない。国書がなければ紹介されなかっただろう(少なくともこんな規模では)作家や作品は数多く、特に幻想怪奇・SF・ミステリに関心を寄せる読書人に与えてきた恩恵は相当なもんだろうと思う。

かつての薔薇十字社桃源社など、読書界を彩った個性豊かな出版社は数多いが、森開社のように細々とでも出版を続けているのはごく少数であり、大半は短命に終わるか、創土社のように活動停止を余儀なくされるような厳しい情勢*1
そんな中、まさに"重量級"とでもいう規模で次々と採算を度外視した斬新な企画を打ちたててきたその姿勢はただただ賞賛するしかない。ネット時代になっての慢性的な出版不況の中での40周年ということは実に意義深いものがあり、明るいニュースではなかろうか。世間ではアマゾン・キンドル等の電子ブックの話題で忙しいようだが、国書さんには今後も紙の書籍の牙城を守り続けて欲しいとただただ願うばかりである。

さて、そんな国書から5月に出た1冊「野生の蜜/キローガ短編集成」を遅ればせながらGETしてきた。造本も素晴らしく、いかにも国書らしい1冊という感じ。今回はこれを紹介しておこう。

オラシオ・キローガ芥川龍之介とほぼ同世代のウルグアイの作家。今から20年ほども前に代表作のひとつ「羽根まくら」を読み、忘れがたい感銘を受けた。別の版元からオリジナル短編集である「愛と狂気と死の物語」(彩流社)も出版されているが、それ以外の短編もぜひ読んでみたいと願っていたのでこれは嬉しい出版である。
代表作とされる「羽根まくら」はこんなお話。

とある新婚夫婦。夢見がちな新婦は厳格な夫と冷たい屋敷の中で次第にやせ細っていき、インフルエンザに罹ったのを契機にすっかり寝込んでしまった。医者も病の原因がまったく分からず匙を投げる有様である。そのうちとうとう起き上がることも適わなくなり、意識不明に陥ったかと思うとやがて静かに息を引き取ってしまう。
妻が横たわっていたベッドを片付けるために寝室に入った女中がその時初めて枕に不審の目を向けた。そこに小さな血の染みを発見したのだ。
「旦那様!」
呼ばれて寝室に入った主人が枕を持ち上げてみるとそれは異常なほどに重い。疑いが頂点に達した主は食堂に枕を持ち出してテーブルの上に置くと刀で真っ二つに切り裂いた。
するとそこに現れたのは・・・。

まぁこんな感じで、実にシンプルかつ技巧的な好短編である。結末まで一直線、余計な脇道一切無しが心地よい。
他には無限に生え変わる舌を持つ男の不気味さを描いた「舌」、狂犬病の恐怖を描いた「狂犬」、ワーグナーの楽曲に人生を燃えつくす少女「炎」などなどなど。
ほぼ100年前の小説ながらテーマもスタイルもバラエティに富み、「炎」などかなリ凝った造りのものある。あのボルヘスの低評価というのがいまいち解せないが、ジェラルド・カーシュなどがお好きの方ならかなり楽しめるはず。大分冷え込んできたこの時期、炬燵にもぐりこみながら奇譚の世界に浸りたい方に強力お勧めの1冊である。

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*1:実は2000年代に入ってから復活しているのだが、昔のような怪奇幻想系ではなくなってしまったようなので。