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モンスターマスクコレクター、ALI@ハット卿のマスクと本と映画に関する無駄話。不定期更新。

幻のホラー映画を観る − 「シェラ・デ・コブレの幽霊」

誰しも過去に1度だけ観る機会を得、その後さまざまな理由で再見できず、記憶の片隅で気になり続けている映画やTVドラマといったものがあるのではなかろうか? 特に観たのが年少の時分だったりすると記憶も曖昧模糊としていて、他の作品との混同等も生じ、たしかこんなシーンがあったはず? 結局どんな話だったのか? 等々、もう一度実際に観て確認したいと思うのが人情だろう。自分にとっては「バニーレークは行方不明」「ベルフェゴールは誰だ」、そしてこの「シェラ・デ・コブレの幽霊」(または「シェラデコブレの幽霊」)などがそんな作品だった。
ところがこの映画が昨年関西の人気番組探偵!ナイトスクープに取り上げられたことを契機に、ホラー映画向上委員会の尽力と、フィルム所有者である添野氏の協力のもとでこの2月6日に神戸映画資料館で上映会が開かれることになったのである。

上映会の開かれる神戸は、関東住みの私にとってあまりに遠い。交通費も半端ではないのでどうしようかと思ったが、この機会を逃せば今後関東で観られる機会があるかどうか分らない。幸い週末でもあるし、また、資料館のある新長田は、最近、神戸ゆかりの漫画家横山光輝を偲んで実物大の鉄人28号のモニュメントが完成して話題になっているところだったので、この観光も兼ね、思い切って新幹線に飛び乗って行ってみることにしたのであった。

さてディープなホラー映画ファンなら、この映画については一度くらいはお聞きになったことがあると思う。ご存知ない方はちょっとググッて頂ければ、作品を取り上げたナイトスクープの動画や依頼者の方のブログでの詳しい番組レポート、フィルム所有者添野氏のブログなどが見つかるはずだが、さすがにそれでは手抜きなので簡単に概要を紹介しておこう。

「シェラ・デ・コブレの幽霊」は、1964年、「サイコ」のシナリオや「アウターリミッツ」のプロデューサーとして知られるジョゼフ・ステファーノが、ABCとの確執から第1シーズンで降板になった「アウターリミッツ」の対抗馬として、CBSのために企画した新シリーズ「Haunted」パイロット版として制作されたものだ。当時、完成されたこの映画はCBS社内で試写されたが、あまりに怖すぎたため試写中に気分の悪くなる人が続出、企画は流れ、作品は米国内では未放映のままお蔵入りとなって、日本をはじめヨーロッパ数国に売られてしまった。日本では過去に淀長さんの日曜洋画劇場でたった1回のみ放映されたままフィルムは返却されてしまい、1度限り見た一部ホラー映画ファンの間で伝説化していた。

かく言う私も当時この放送を見た中の一人である。ただ、子供だったので後半の推理モノ風な展開が理解できなかったのか、覚えているのは無数に絵画のかかった壁の前に半透明の幽霊が出現するシーンのみ。しかもこの映画とAIPのB級映画「骸骨の叫び」がごっちゃになってしまい、どれがどれやら分らなくなっていた。それが今回確認できるので大いに楽しみであった。

未見の方のために以下にあらすじも紹介しておく。

著名な建築家であり、趣味で心霊現象を解決する心霊探偵ネルソン・オライオン(マーティン・ランドー)のもとに資産家のマンドール(トム・シムコックス)から依頼が舞い込む。マンドールの妻ヴィヴィア(ダイアン・ベーカー)の話によると、夜ごと夫ヘンリーの元に不気味なすすり泣きだけの無言電話かかり、夫はそれを1年前になくなった母親の亡霊と信じ、日に日に衰弱しているという。

ヘンリーの母は生前、埋葬されることを極端に恐れ、地下納骨堂に安置した棺の蓋はあけたままにし、手の届くところに息子の部屋への直通電話を引くように遺言を遺して死んだというのである。

調査のためネルソンとヴィヴィアが地下の石室に入ると棺の傍らの電話にはまだぬくもりが感じられた。棺の中には遺体があったが不審な点は見られない。一旦、外に出たヴィヴィアはハンドバッグを忘れたことに気づき、一人で納骨堂に戻るが、そのときヴィヴィアの目前に恐ろしい亡霊が出現し、恐怖のあまり失神する。壁から落ちた十字架の裏には「HELPとダイヤルせよ」という謎の言葉が刻まれていた。

ネルソンは気を失ったヴィヴィアを自宅に連れて介抱した。ネルソンの自宅には彼が調査した過去の事件に関わる絵画を壁に飾っていたが、目覚めた彼女は飾られている絵の中の1枚、シェラ・デ・コブレ伝道教会の絵を見て顔色を変える。シェラ・デ・コブレは彼女の生まれ故郷であり、かつてその村は血を流す幽霊にアメリカ人の女性が殺害されるというおぞましい事件が起こっていた。
そこへ、妻を迎えに夫のマンドールと老家政婦(ジュディス・アンダーソン)がやってくる。実はこの家政婦もシェラ・デ・コブレ出身であり、ネルソンを見かけると老家政婦はかつてネルソンが村の事件を解決出来なかったことをなじった。

再び依頼者の邸宅を訪れたネルソンは、再度出現した亡霊を目の当たりにして、これが真実であることを確信する。そして、老家政婦が依頼者の妻を脅しているところを立ち聞きしてしまう・・・
この老家政婦と依頼者の妻の関係は? 幽霊は本当に依頼者の母親の亡霊なのか? シェラ・デ・コブレで何があったのか?・・・映画はこんな感じで大団円を迎える。

数十年ぶりに再会した”幽霊”の印象は、今回観たバージョンが約50分の短縮モノクロ版だったということもあるだろうが、あっさりした展開で、良くも悪くもTVシリーズ中の1本という印象を受けた。聖咲奇氏のエッセイ(「奇想天外2.0」(イーストプレス)所収)によれば、CBSの意向で撮り足されたカラーの長尺版も存在するらしいが、もしそれを観られたとしても、印象にそう大差はなかっただろうと想像される。最近のこれでもかといった風のクドい展開に慣れた今の若い人が「史上最恐のホラー映画」などという惹句に乗せられて観たとしても、肩透かしを喰らうのはまず必至だろう。

とはいえ、登場する幽霊のメイクは、当時としてはかなりグロな方だろうし、おどろおどろしい音響効果も悪くはない。ネガポジ反転の映像はすでに「アウターリミッツ」の「宇宙人現わる」で使用されていたが、幽霊にこそ相応しい手法だろう。クライマックスではこれが突然現れたかと思うと襲い掛かってくるのだ。CG全盛の今なら驚くには当たらないが、まだ素朴な特撮しかなかった当時、これをテレビで観ていた子供達にはさぞかしショッキングだったのではあるまいか。未だにトラウマになっている人が存在することも頷ける。もし、毎回こんなのが手を変え品を変え登場するようなストーリーでシリーズ化していたら、後年の「事件記者コルチャック」に先立つオカルトシリーズとして人気が出ていたかもしれない。

話の中で、幽霊から電話が掛かってくるという趣向は、同時代のSF番組ミステリーゾーン(「トワイライト・ゾーン」)のエピソード「長距離電話」(子供のおもちゃの電話に霊界の祖母から電話が掛かってくる)を思わせる。しかもこれがちょっとしたミスディレクション(亡くなった母の幽霊と思わせて・・・)みたいになっているところが面白い。ジョゼフ・ステファーノはライバル番組のあのエピソードを覚えていてネタに利用したのかもしれない。

今回再見して完全に記憶違いをしていた点がいくつか分った。記憶では幽霊が登場する背面の壁が真っ白だったのだが、実際見てみるとどちらかというと暗い壁なのである。また、あんなクリムゾンゴーストみたいな頭巾は被っていなかった印象なのだが、しっかり被っているではないか。やれやれ。
あと、これは蛇足だが、実は自分の記憶では昔放送したのは荻昌弘氏の「月曜ロードショー」の方で、荻氏が冒頭の解説で「これがテレビで観られるなんて!」と大いに煽った解説をされたと覚えていたのだが、放映が日曜洋画劇場であったことは間違いないようなので、どうやらこれも他の映画の解説と取り違えていたらしい。自分の記憶力の悪さにほとほと呆れ果てている始末である。


ともあれ、数十年ぶりに幻の映画を観る機会を与えてくれた関係各位には感謝の意を表したい。この作品が現時点で「史上最恐」でなかったとしても、Jホラーに影響を与えたかもしれない重要作であり、少なくとも60年代のホラー映画の中でも記憶に残る1本であることは間違いないだろう。DVD化に向けての地道な努力がなされていると聞くが、数々の障害があって難航しているという。多くのホラー映画ファンのためにも、いつかソフト化が実現することを願っている。

「シェラ・デ・コブレの幽霊」を取り上げた宇宙船37号(1987:朝日ソノラマ)と「奇想天外2.0」(2007:イーストプレス)の2冊。右上の写真が"幽霊"のアップ、下はマーティン・ランドーとダイアン・ベーカー。転載禁止なので遠目から本全体を写した写真でご容赦。

■2019年1月4日
 すでにご存じかとは思いますが、その後海外版のブルーレイが発売された模様。長いことかかりましたが。ググってみて下さい。


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